2013年3月15日金曜日

ヤクラ、Jacula, "Tardo Pede in Magiam Versus"

Jacula, Tardo Pede in Magiam Versus, 1973
ヤクラ『サバトの宴』1973年


 イタリアン・プログレである。そのなかでも、かなりニッチな部類であるが、一説によるとDevil Dollが出てくるまで、この「おどろおどろしいプログレ」の分野における第一人者であったという。そりゃあ、類似アルバムが出ていないんだから、当然か。しかし日本語題『サバトの宴』とは、また吹かしたものである。自分はイタリア語に詳しくないが、明らかに雰囲気で付けた邦題だろう。とはいえ、それがまたなんとなく合っているような気もするのが始末に負えないところでもあるのだが。
 このヤクラというバンド、どうやら長らくこのアルバムのみしかリリースしていなかったようで、ずっと「珍盤」扱いされ、レコード市場では高値で取引されてきたという歴史があるという(自分が持っているのは、再販の紙ジャケCD版)。たしかに、ジャケ買いしてしまっても仕方ないほどの、独特の魅力を持っている。いや、魅力というよりも「毒」であろうか。

 内容としては、全6曲収録で、10分ほどの曲が3曲、5分ほどの曲が3曲と、プログレとしては標準的な作りである。アルバム全体にパイプオルガンがフィーチャリングされており、まるでバッハのような荘厳さを醸し出している。また、ヒステリックとも言える女性ボーカルが全曲に亘ってメインボーカルを取っており(ほぼボーカルなし、男性の語りのみという曲もある)、このボーカルの独特の雰囲気も相まって、ほかのプログレバンドとは一線を画すものが出来上がっている。また、英語に比べて母音が多く、力強さを感じ取れるイタリア語で歌われており、この辺りもヤクラの特徴のひとつになっていると言えるだろう。
 但し、このあまりにも強いコンセプトが、アルバム全体の広がりを邪魔しているように思われる部分もある。つまり、アルバム全体が統一されているのであるが、逆に、すべて同じ速度でのっぺりと進んでいくようにも感じられてしまうのである。もちろんよく聞いてみれば、必ずしも平板なわけでなく、しっかりと起伏が感じられる。「Jacula Valzer」などは、(三拍子ということを除けば)それほどワルツっぽくないが、フルートがフィーチャリングされており、後ろでほのかに響く女性コーラスなど、なにやら幻想的な雰囲気を醸し出している。それにもかかわらず単調に思われる理由として、やけにクラシカルな曲想のフォーマットに忠実である、という点もあるだろうか。基本的にチャーチオルガンとコーラス、女性ボーカル、そして不気味な語りというフォーマットが完成され過ぎており、収録曲それぞれの区別がつきにくいのである。これは、シングルヒットを生み出しにくいコンセプト・アルバムと呼ばれるものすべてに当てはまる悩みではないだろうか。
 つまり、この手のアルバムは、「何曲かが収録されたアルバム」ではなく、「アルバム一枚でひとつ」のものとして認識しなければならないのだろう。
 また、同様の雰囲気を持つバンドと比較すると、90年代に出たDevil Dollなどとも違っている。Devil Dollは確実に80年代以降の音楽を吸収しており、またアルバム全体をシアトリカルにまとめ上げるコンセプトが強かったが、70年代のヤクラは、まだ「歌もの」としての性格が強い。また、時代のせいなのか、イタリアという土地柄のせいなのか、「懐メロ的」というか、「ド演歌的」な要素が強い。これは、メロディーを重視するイタリア人気質なのかは知らないが。そのため、同様なコケ脅しゴシック趣味のCradle of Filthなどに比べると、メロウで歌い上げる感じが強い。

 このなかばカルト扱いされていたバンド、ヤクラであるが、実は2001年にセカンドアルバム、2011年にサードアルバムを発表している。こちらの方は未聴であるが、21世紀にもなって、このイタリアン・ジャッロ的なコケ脅し怪奇趣味(誉め言葉)を継続しているのかは、興味があるところである。

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