Devil Doll, Sacrilegium, 1992
デヴィル・ドール『宗教冒涜』1992年
スロヴェニア出身の謎の音楽集団、デヴィル・ドールによる三枚目のアルバム。
このデヴィル・ドール自体が謎の人物、Mr. Doctorに率いられており、バンドというよりも、プロジェクトと言った方が良いのかもしれない。
分類としては、ゴシック・ロック、ゴシック・メタルなどになるのだろうか。
このアルバムの特徴はなんと言っても、「一曲しか収録されていない」ということだろう。
プリンスが『Lovesexy』で各トラックの分割をしないで、全盤一曲扱いでリリースしたが、そのようなスタイルとも違い、本当に「一曲」しか収録されていないのである。しかもそれが50分ほどの長尺。
「曲の長さ」をプログレの尺度とするなら、このアルバムはとてつもなくプログレッシブなロックということになる。(とはいえ、本盤は進歩的(Progressive)を通り越して、前衛的(Avant-garde)と言うべきものかもしれないけど)
曲の解説をするのもきわめて難しい。
曲そのものは、荘厳なオーケストラで幕を開け、ゴシックというに恥じることのない、重厚な音楽を聞かせてくれる。そこに「Sacrilegium」と繰り返すコーラスが重なり、緊張感もいや増して行く…。
そこで全編そのような、ネオ・クラシカルな構成を採っているかというと、さにあらず。
メイン・ボーカルのMr. Doctorの歌い方が、歌いというよりもむしろ語りに近いのだ。
無限に続く永きに亘り、幾百万の時間
私は幻影の杯を飲んだ腫瘍と愚鈍を耕しながら悲嘆にくれながら骨匣の昏き隧道を迷い歩いていた
という彼の、歌とも語りともつかない不気味な声が響き始めると、背後の音は急にフェードアウトし、ピアノだけの伴奏になる。
その後、この絶望的なトーンだけは維持しながら、曲想は幾通りにも変化して行く。
そしてMr. Doctorの声色も(もはや、歌声というよりも声色と言った方が正確だろう)、まるで一人芝居のように変化してゆく。
途中、またクラシカル・メタルのようなシーンになったり、急に戦争映画の市街戦を思わせるような音が背後で鳴ったりしながら、この暗黒芝居は続いてゆき、興奮が最高潮に達して40分の演奏時間を終える。
その後、4分の静寂を経ると、急にどこからともなく音が聞こえ始める。
それはもはや音楽ではなく、葬式の音である。カラスの鳴き声、教会の鐘、土をかける音、そして遠くの方から、「土は土に…」という声が。
それから逆再生をかけた意味不明の声が何事かを語り、完。
冒頭でゴシック・メタルなどと書いたが、まさに分類不能の音楽なのである。
渋谷Tower Recordではプログレッシブ・ロックの棚に置かれていたが、それもひとつの便宜的分類に過ぎないと言えるだろう。
そもそも、NirvanaのNevermindが91年に発売されており、L.A.メタルなどの音楽も勢いを失っているような時代に、よくこのような音楽を書いたものだと思う。
ただ、プログレッシブ・ロックの全盛期70年代には、このような音楽が生まれなかったであろうことも確かである。そこにはやはり80年代以降のニュー・ウェーブなどの影響があるように思われる。反時代的音楽ではなく、非時代的音楽の一種だろう。
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