2013年3月16日土曜日

人間椅子『怪人二十面相』

人間椅子『怪人二十面相』2000年


 日本が誇る和風ドゥーム・メタルバンド、人間椅子の9枚目のアルバム。人間椅子というと、幻想的というよりもむしろ怪奇趣味で和風な歌詞が真っ先に思い浮かぶが、音楽的にはややスラッシュ・メタル寄りだったりして、なにも知らない初心者が手を出すと火傷をするバンドでもあると思う(スラッシュ・メタル好きは除く)。曲名を、戦前の幻想文学から取ってきたりして、聞く者の怪奇趣味をくすぐるのが上手いのだ。その割には、卑近な話題をテーマにした曲などもあり、個人的にはちょっとつかみどころのないバンドでもある。

 さて、人間椅子のコンセプト自体は好きなものの、彼らが奏でる旋律の方には少し苦手意識を持っていたのだが、そのなかでも、この『怪人二十面相』は聞きやすい部類になるのではなかろうか。音楽のキャッチ―さもさることながら、全編が、いわゆる江戸川乱歩の探偵小説風味で統一されており、あの世界観が好きであれば、「あぁ、これはこういうイメージから由来しているんだな」などと思い至って、ニヤニヤしながら聞くことが出来るのである。

 楽曲的には、「芋虫」などが強烈であろうが、個人的には最終曲の「大団円」を推したい。アルバム全体の流れとしては、その前が「楽しい夏休み」「地獄風景」という、夏休みと運動会を歌った、どちらかというと乱歩の世界から外れた、超アップテンポな、正統派メタルの曲が二曲続いており、それを待っての「大団円」なのだが。この一曲をもって、『怪人二十面相』はプログレの名盤の一枚に数えることが出来るだろう。
 「大団円」は「芋虫」と並ぶ8分の長大曲であるが、ダウナーで陰鬱な曲想が徹頭徹尾貫かれている「芋虫」と違い、「大団円」は途中で二転三転する。最初はミドルテンポで開始し、何事かを予感させるギターが旋律を奏でていく。歌が始まると、曲はややテンポを落とすが、歌詞はいかにも「劇的」を狙ったようなフレーズが畳みかけられてく。この劇的具合は、あからさますぎて、むしろ「戯画化」のようにも思える。「青銅の女神」「貴婦人の涙」「北欧の古城」など、「いかにも」過ぎるイメージが積み重ねられていくが、その合間にも「そして大団円、やがて大団円」という言葉で各バースがつなげられてゆく。中盤になるとまた曲が一変し、なんと今度は舞台のカーテンコールになるのだ。つまり、これまでのアルバムで歌われてきた曲をすべて、舞台上のことである、としてしまうのだ。(もちろん、歌詞のみを読むなら、このカーテンコールは「大団円」前半部の「いかにも」なドラマにたいするものであるのだが、それは容易にアルバム全体へと拡大され得る)
そして、このアルバム全体のトリを飾る「大団円」は最後に

またのご来場をお待ちして
また会うその日まで御機嫌よう

と歌う。そして冒頭のギターフレーズがもう一度繰り返され、アルバム全体はしめやかに終了する。
 人間椅子といえば、普通はスラッシュ・メタルと言われるだろうが、この曲はこの全体を統一するイメージや曲同士の有機的なつながりがきわめてプログレッシブ・ロック的であるし、また過剰とも言えるシアトリカルな演出が、ロック・オペラ的でもある。なんとも形容のしがたいアルバムであるが、名盤ということだけは確実である。


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