2013年9月29日日曜日

アイアン・メイデン『パワースレイヴ』Iron Maiden, "Powerslave"

Iron Maiden, "Powerslave," 1984

イギリスのNWOBHMバンド、アイアン・メイデンの5枚目である。
このNWOBHMという略号、最初見たときは面食らったものである。いったいなんと発音すればいいんだ?それがNew Wave of British Heavy Metalの略だと知ったいまでも腑に落ちていない。もとの名前は良いとして、じゃあNWOBHMはどうやって発音するのか?私と同じ疑問を持っている人は結構いるのではないか…と信じたい。

さてボーカルの方はブルース・ディッキンソンが加入してから3枚目ということで、名実ともにメイデンのボーカルとして定着してきた頃といった感じではないだろうか。
楽曲は一曲目のAce's Highから飛ばしていき、ハイスピードチューンで全速力といった感じなのだが、ちょっと一筋縄でいかない部分もある。
それは楽曲の題材、というか歌詞である。アイアン・メイデンは初期のころからゾンビ(?)のエディをマスコットキャラにし、どちらかというとおどろおどろしい、ホラーフィルムのような世界観を構築してきたのだが、本アルバムはそれに留まらず、多彩な世界観を描いている。

一曲目「撃墜王の高揚(Ace's High)」、これは戦闘機乗りの歌で、スピットファイヤーということから第二次世界大戦が舞台か。アルバム版でカットされているが、シングル版では冒頭にチャーチルの演説が収録されているらしい。
二曲目「真夜中2分前(2 Minutes to Midnight)」は近未来、ゾンビとの戦いを謳った歌なのか?
三曲目「Losfer Words (Big 'Orra)」はインストゥルメンタル。題名はどういう意味?
四曲目「白刃の輝き(Flash of the Blade)」はドラゴンを追跡する少年の歌?ファンタジーなのかな?「聖ゲオルギオスかダヴィデか」と言っているけど、まぁこれは英語圏で「龍を殺す」と「巨大な敵を倒す」のイメージからの表現だろう。
五曲目「決闘者たち(The Duelists)」は前曲と雰囲気も似ており、割と続きものの感じで聞ける。「銃を選ぶか、剣で闘うか、武器の選択は終わった」と歌っているけど、銃が出てくるファンタジーもあるし。普通にアメリカ西部的なイメージで聞くのもアリだと思うが。
さて六曲目の「村への帰還(Back in the Village)」だけど、これ何の歌?歌詞を読む限りでは、村に戻って復讐する歌だと思うのだけど、状況がよく分からん…。曲自体はものすごくカッコいいのだけれど、「キッチンでのシェルショック、テーブルはひっくり返る」だのの歌詞を聞くと緊迫感が薄れてしまう。もしかして、おバカソングなのか?そんなことないと思うのだが…。誰か元ネタを知っていたら教えて欲しい。
七曲目「力の奴隷(Powerslave)」は前曲と打って変わって重々しいミドルテンポの曲。中東風の旋律に乗せて歌われる歌詞はエジプトのモチーフで彩られ、これが死に瀕したファラオの歌だろうと推察される。
教えてくれ、なぜ私が力の奴隷にならねばならぬのか
私は死にたくない、私は神なのだ、
なぜ生き続けることが出来ぬのだ?
生命の付与者が死ぬと、
周りのすべては荒廃する。
そして私の最後の時に、
私は死の力の奴隷なのだ。
本アルバムのジャケットとも呼応する、まさにタイトル・チューンに相応しい名曲である。
そして最後を飾るのが八曲目「老水夫の歌(Rime of the Ancient Mariner)」。これは13分を超える大曲であるが、それも当然、これはサミュエル・テイラー・コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge, 1772-1834)の同名の詩を歌にしたものである。コールリッジの『老水夫の歌』は相当長い詩であるが、この歌のストーリは詩の要約版と言って良く、だいたい同じ内容を謳っている。結婚式の招待客のひとりに老水夫が自分の話を語り始める。彼はかつて航海のあいだにアホウドリを殺したことによって呪いを受けてしまい、船員たちが次々と倒れるなか、彼だけは生きながらえながら漂流し続ける。ついには海の怪物にも創造の神秘を見出し賛美を捧げたところ呪いは解け、水先案内人と隠者の船に救われる。それ以降彼は行く先々で自らの体験を話しているのだ「神の被造物はすべて愛すべきものである」。この話を聞かされた招待客は苦い体験をし、ひとつ賢くなるのである…。
 もともとの詩は英国詩においてかなり重要な作品らしく、1798年に出版された、この作品が収められている『抒情民謡集(Lyrical Ballads)』(ワーズワースとの合作)からイギリスのロマン主義文学が始まったという。詩はジェイムズ・クックによる二度目の南洋探検に着想を得ているとされている。幻想文学の祖のひとりでもあるような感じなので、こちらの方も詳しく調べてみたいが。
 アイアン・メイデンの歌に戻ると、さすがに13分あるだけあって、聞きごたえ十分である。メタル・バンドとコールリッジって、すこし結びつきにくいように思うが…。物語を謳う歌なので、曲の展開も二転三転し、もうこれはプログレと言っても過言ではないだろう。アイアン・メイデンは割と物語風の歌が好きだが、プログレ・バンドでもこれだけ長大な曲をしっかり作るのは少ないのではないだろうか。もちろんコールリッジの詩という、英語詩史上に屹立する名作の下敷きがあってこそではあるが。

アルバム全体としては名曲、佳曲が多く、いわゆる捨て曲はない、ように思われる。
前半のスピードチューンに始まり、ラストにタイトル・チューンの「Powerslave」、そして「Rime of the Ancient Mariner」という構成は実に素晴らしい。もちろん後半に行くに従って重くなっていく(最後の二曲で全体の40%近くのランニング・タイムを消費)ので、やや腰を落ち着けないといけないのが難点ではあるが。まぁべつにコンセプト・アルバム的に聞かなければならないわけでもないので、気に入った曲だけ聞くのでもまったく問題ないだろう。

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